はじめに

はじめに

小さいころ、ケガをして病院に入院したとき、大好きな看護師さんがいた。
看護師さんとふたりきりのとき、わたしは「看護師さんの中で、(あなたが)一番好きだよ」と伝えた。
看護師さんはしばらくの沈黙のあと、「わたしの採血が下手で、泣かせちゃったことあるのに、好きって言ってくれるの…」と涙を流しながらつぶやいた。彼女の涙を見つめながら、胸の奥が、ざわつく。世界から二人を遮るように囲まれたカーテンが、窓から吹き込まれた風によって揺れた。

その後、十数年後、わたしは東京にいて、ある映画を観た。
自分が孤独だということを浮き彫りにされるような映画だった。大切な友人とその映画について話す。
その時気づく。親愛なる友人だが、わたしには友人の孤独を埋めることはできず、友人にもわたしの孤独を埋めることができない。
見えないこの隔たりと、ぽっかりと空いた穴は、誰にも埋められない。
関わってるが、交わっていない、切なさよ。それと共に、どうしようもなく迫り来る、愛おしさよ。

冒頭に書いた、淡い恋心と、それから十数年後に感じた、ある意味での、わたしを取り巻く周りの全てに対する恋心を融けあわせ、映画を撮ろうと思った。いま、わたしが撮らなければならないのは、これだと。

監督:井樫 彩